はじめまして。株式会社イノベーター・ジャパンでフロントエンドエンジニアをしている、うじた(@besburg)です。弊社ではスクラムによる開発を取り入れており、スプリントの最後には毎回スプリントレトロスペクティブという振り返りを行っています。そこで試した振り返りの手法をこの記事ではまとめてみました。
私たちのプロジェクトではタスクの優先度に入れ替わりが多く、今やっていることを可視化するため、2021年8月からスクラムを開始しました。参加メンバーは各プロジェクトのエンジニア全員で、スプリント期間に合わせて1週間ごとに振り返りを行っています。スクラムによる開発が初めてだったこともあり、当初は自分たちに合った手法を見つけることを目標に振り返りを進めました。
週ごとにメンバーが交代でファシリテーターを担当し、試したい振り返り手法を持ち寄ってレトロスペクティブを行いました。そのため基本的には振り返り手法を毎週変えていましたが、最終的に採用したFDLや、試してみてやりやすかったYWTやKPTなど、自分たちに合ってそうだった手法は何回か試してみました。
その結果を以前、弊社のエンジニアブログで振り返りをいろいろ試してみた感想として簡単にまとめました。ここではブログに掲載しなかった手法も含めて、それぞれの振り返りの所感や説明、そして自分たちに適した手法を見つけるまでの過程で実施した、計15の振り返りを紹介します。
- 1. YWT - やったこと・わかったこと・次にやること
- 2. KPT - Keep Problem Try
- 3. タイムライン+KPT
- 4. FDL - Fun/Done/Learn
- 5. 学習マトリックス(Learning matrix)
- 6. SSC - Start Stop Continue
- 7. 象、死んだ魚、嘔吐 - Elephants, dead fish & vomit
- 8. ORID Questions
- 9. Following up on Action Items
- 10. Small Starfish
- 11. Good & New
- 12. MAD SAD GLAD - 喜・怒・哀
- 13〜15. 自分たちの手法「FDL+Try+Memo」を見つける
- まとめ ─ チームに合ったやり方で振り返りを進めよう
※振り返り手法の掲載順は、必ずしもチームで実施した順番ではありません。また、いくつかの手法では実施した際に項目を整理した図の画像も掲載しています。
1. YWT - やったこと・わかったこと・次にやること
株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)が、1990年代に開発した「技術KI計画」によるKI活動の中で生み出された手法。次のYWTをシートに整理して、振り返りを定期的に実施する。
- Y - やったこと
- W - わかったこと
- T - 次にやること
詳細は、JMAC公式の用語集から「YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)」を参照。
会話が生まれやすくチームの振り返りだと感じられる
私たちのYWTでは、Y(やったこと)の共有で「他のメンバーが実施したことでもOK」というルールで進めました。このため自然とチームメンバーに感謝する場になり、自分が気にせず進めたことを、他のメンバーの共有によって再認識できました。W(わかったこと)も、他のメンバーのYをもとに書いてOKとしました。メンバー間の会話が生まれやすく、チームで振り返りをしていると感じられるのが良かったです。
T(次にやること)では、出た中から1つ2つを選んでアクションを具体化しました。振り返りで共有したことを思い出しながら、Tryを意識してスプリントを進められるのは、振り返りを継続的に行う効果が大きいと感じました。Tryを最後に考えることで、次にやりたいことが発見できるポジティブな振り返りだと感じました。
実践例などの参考リンク
- はてなインターンの振り返りをYWTを使ってやってみた - だいくしー(@daiksy)のはてなブログ
- YWTで振り返るエンジニアリングマネージャーになってからの1年間 - SMARTCAMP Engineer Blog
- 中長期のふりかえりとしてYWTを試してみました - feedforce Engineers' blog
具体的な「ふりかえり」のやり方を解説した書籍『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』でも紹介されている。
2. KPT - Keep Problem Try
ソフトウェア開発を含むさまざまな活動の実施後に、次の3つからなるフォーマットに沿って知見を整理する思考フレームワーク。
- K - Keep / できたこと・継続すること
- P - Problem / 改善するべき問題点
- T - Try / 挑戦したいこと
アジャイル開発の創始者の1人であるコンピューター科学者のアリスター・コーバーン氏の著書『アジャイルソフトウェア開発』で紹介されていた「反省会の出力サンプル(Sample poster from reflection)」をもとに、永和システムマネジメントが2000年代前半からKPT(けぷと)として顧客企業との「ふりかえり」で使用した。
- KPTを使ったプロセス改善 - An Agile Way:オルタナティブ・ブログ
よく知られた手法だけに淡白にならないよう
KPTは有名な振り返り手法なだけあって、チームメンバーでやったことのある人がいたり、実践したチームの話もたくさんあって、振り返りのイメージがつかみやすくスムーズに進行することができました。
しかし、スムーズに進むだけに、振り返りが淡々と行われがちになる点には気をつけないといけないかもしれません。アイスブレイクなど、自分達のチームに合ったひと工夫を加えないと、あまり積極的な発言もない静かな振り返りになりそうでした。
実践例などの参考リンク
- KPTで粘り強く品質改善に取り組んだ話 - クックパッド開発者ブログ
- KPTのKがいまいち膨らまないチームに贈るパワフルな質問 - yigarashiのブログ
- チームでKPTをやってみました - Wantedly Engineer Blog
- ふりかえり や KPT などのファシリテーターをやるときに意識していること - えいのうにっき
- ある改善、プラクティスやTryをいつやめるのか。もしくは5000枚のKPTの理由。 - うさぎ組
書籍『ふりかえりガイドブック』で紹介されているほか、専門の書籍も刊行されている。
3. タイムライン+KPT
タイムラインは、長期のイテレーションやプロジェクトを振り返る手法で、期間内に起きたことや感じたことを時系列に沿って書き出して、チームで共有する。ThoughtWorksのテクニカルプリンシパルコンサルタントを務めたパトリック・クア(@patkua)氏のブログに紹介されている。
- A Retrospective Timeline – thekua.com@rest
これをKPTと組み合わせることで、長期にわたるKeepとProblemを整理することができる。
時系列があるとKeepやProblemを出しやすい
KPTタイムラインでは、横軸にスプリント期間の時系列を表して、上半分にKeepを、下半分にProblemを挙げていきました。Tryについては、前回のスプリントで挙げた項目が実行できたのか? 結果はどうだったのか? を確認してから新しく出すようにしました。
時系列があった方が、KeepやProblemが出しやすいと感じられました。逆に、スプリント期間以外で感じたことなどは、時系列に縛られることで共有しにくくなるのがデメリットだと思われます。
実践例などの参考リンク
- タイムライン振り返りをリモート開催した話 - SmartHR Tech Blog
- サイボウズの開発を加速させる「ふりかえり」活動 - Cybozu Inside Out
タイムラインは、書籍『ふりかえりガイドブック』や、さまざまな「ふりかえり」の手法を解説した書籍『アジャイルレトロスペクティブ』でも紹介されている。
4. FDL - Fun/Done/Learn
次の3つの丸を重ねた図をボードに書き、振り返りの結果を付箋で貼り付けて整理する。
- Fun - 楽しかったこと
- DoneまたはDeliver - 価値を届けられたこと
- Learn - 学んだこと
2018年10月に開催された「Scrum Coaches Retreat in Okinawa」で提唱された手法で、詳細を作者の安井力(@yattom)氏が次の記事で解説している。
- ファン・ダン・ラーン(FDL)ふりかえりボード - Qiita
楽しく振り返りをするのに最適
FDLは、楽しく振り返りをするのに最適な手法です。学んだこと、楽しかったこと、価値を届けられたことをベン図に付箋で貼り付けていき、1人ずつ発表する形式で行いました。
Learnを共有することで、チームメンバーの新しい気づきにつながったり、学んだことをさらに深掘りして話したりできたのがよかったです。付箋が多いところや少ないところに注目して、視覚的に振り返りを行える点も、振り返りに慣れていないチームでも試しやすい手法だと思います。
実践例などの参考リンク
- Fun/Done/Learnによるふりかえりレポート / 学び・楽しさにフォーカスするアクティビティ紹介 - Qiita
- オンラインでFun/Done/Learnふりかえりをしてみました - Zenn
- ふりかえりでFun! Done! Learn! - オブジェクトの広場
書籍『ふりかえりガイドブック』でも紹介されている。
5. 学習マトリックス(Learning matrix)
マトリックス上で次の4つの領域に分類して振り返りを行う。
- 🙂 - Good / よかったこと
- 😞 - Change / 変えたいこと
- 💡 - Idea / 新しいアイデア
- 💐 - Thanks / 感謝
振り返りプラットフォームNeatro共同創業者のジュリアン・ヴァレンテ氏が手法を具体的に紹介している。
- How to conduct an Agile retrospective: The Learning Matrix by Julien Valente - Neatro
メンバーの助け合いが可視化できる
学習マトリックスには「感謝」という項目があり、チームメンバーにお礼をしたり、リモートでは分かりづらいチームメンバーの助け合いが可視化できるのがよい点でした。私たちの振り返りはエンジニアのメンバーだけで行っていますが、感謝の項目にはエンジニア以外のメンバーへの感謝も出てきて、いろいろなチームの協力でプロジェクトが進められていることも再認識できました。
実践例などの参考リンク
- コネヒトで実践しているチームビルディングのワークショップ4選 - コネヒト開発者ブログ
- KPT以外を使って振り返りを行った話 - au Commerce&Life Tech Blog
- 成長するチームになる!アジャイルな「ふりかえり」のすすめ - ForgeVision Engineer Blog
書籍『アジャイルレトロスペクティブ』でも紹介されている。
6. SSC - Start Stop Continue
振り返りの際、チームメンバーに「何を始め、何を止め、何を続けるか」を確認する。非効率だったり時間を浪費していることを止められる点が特徴。
- START / 始めること
- STOP / 止めること
- CONTINUE / 続けること
スクラム・アライアンスの創業者であるマイク・コーン氏が、お気に入りの方法として具体的に紹介している。
スプリントごとの改善を意識しやすい
SSCは、スプリントごとの改善を意識して行いやすい手法です。始めにチームでSTOPを出し合うことで、次のスプリントから止めることを明確にできたのはよい点でした。しかし、止めることを毎回出していくのはけっこうたいへんなので、スプリントの期間が短いと続けるのが難しそうな印象を受けました。
実践例などの参考リンク
- コネヒトで実践しているチームビルディングのワークショップ4選 - コネヒト開発者ブログ(再掲)
- スタート・ストップ・コンティニューでオープンな文化作りに励んでいます - HeaRbook
NETFLIX社のオープンな社風を表すエピソードとして、チームメンバー間で「止めてほしいこと、始めてほしいこと、続けてほしいこと」をフィードバックしたと、パティ・マッコード著『NETFLIXの最強人事戦略』(櫻井祐子 訳、2018年、光文社)で紹介されている。
Miroには「スタート、ストップ、コンティニュー」のテンプレートがある。
7. 象、死んだ魚、嘔吐 - Elephants, dead fish & vomit
企業やチームが抱えている課題を、異なる3つの観点から見つける。課題や懸念をあえて共有することで、スルーしがちな問題に気づくことができる。
- 象 ... とても大きく、みんなが見て見ぬふりをしている問題
- 死んだ魚 ... 放置しているとまずいことになる問題
- 嘔吐 ... 胸の中に隠していること
バケーションレンタル(民泊)サービス世界最大手のAirbnbが創業当初のコミュニケーションの危機を乗り切るために導入した(参考リンクを参照)。次のブログにも詳細が紹介されている。
- Elephants, dead fish & vomit - No Kill Switch
漠然としたことや言語化できていないことを共有
「象、死んだ魚、嘔吐」は、普段から感じている問題点や、言いづらいことなどを共有するのに適した手法だと思います。他の手法と比べて、スプリント期間の具体的な問題というより、チームや企業文化に対して漠然と感じていること、うまく言語化できていないことの共有が多くなるので、毎日の朝会のどこかで取り入れるのがいいかもしれません。
私たちのチームがこの方法を試した際には、問題に対するアクション(Try)を出さないと、改善につながらないと感じました。そのためこの手法で問題を把握した後に、チームメンバーでアクションを考える時間を用意するといいかもしれません。
実践例などの参考リンク
リー・ギャラガー著『Airbnb Story 大胆なアイデアを生み、困難を乗り越え、超人気サービスをつくる方法』の第7章では、創業者のジョー・ゲビアが「わるい知らせ」をフィードバックしてもらうツールとして積極的に活用する経緯や成果が紹介されている。
8. ORID Questions
次のORIDそれぞれに対する質問をファシリテーターが用意し、続けて問いかける形式で実践する。
- Objective / 事実
- Reflective / 反応
- Interpretative / 解釈
- Decision / 決定
組織行動学者デービッド・コルブ氏による経験学習(Experiential learning)モデル(経験・内省・教訓・実践の4ステップからなるサイクル)に基づいて、ICA(Institute of Cultural Affairs、文化事業協会)のローラ・スペンサー氏が開発し著書『Winning through participation』にまとめた手法。ICAカナダのブライアン・スタンフィールド氏が著書『The Art of Focused Conversation』で発展させた(オーストラリア政府関連プロジェクトの下記ページより)。
- The ORID Method (Objective, Reflective, Interpretive and Decisional) - Extension Practice
さまざまな感情を共有できる機会になる
ORIDは、起きた事実に対してのさまざまな感情を出していく点が特徴で、他にあまりない珍しい振り返り手法だと思います。楽しかったことやうれしかったことを共有する振り返り手法はいくつかありますが、悲しいと思ったことや残念だと感じたことを共有できる機会になるのはいいなと思いました。
私たちのチームでは、1人ずつORIDの全てを出しながら振り返りを進めましたが、1人がORを出した後にみんなでIDを考えたり、ステップで区切って自分たちに合うように取り入れることもポイントになりそうです。
実践例などの参考リンク
- ふりかえりのツール。 - ブログ・ワークショップ
- 振り返りの方法を探している方へ 内省→行動につなげるORIDをご紹介 - わたしたちのいろ
近藤弥生子著『オードリー・タンの思考』(ブックマン社、2021年)で「内省のフレームワーク」 として紹介されている。オードリー氏も属するg0vが推進する参加型立法プロジェクト「vTaiwan」のベースとなっている。
9. Following up on Action Items
アクションのフォローアップ(Following up on Action Items)というように、行ってきたアクションを次の5つに分類して見直す。
- Added / 追加されたアクション
- Doing / 実行中のアクション
- Pending / 動きがないアクション
- Dropped / 継続されなかったアクション
- Closed / 完了したアクション
ブラジルのアジャイル支援企業Caroli.orgが運営する振り返り情報のブログで手法が説明されている。
- Following up on action items - FunRetrospectives
再開に必要なアクションまでを視野に
他の手法より見直すアクションが多い振り返りです。細かなタスクを振り返るよりも、1カ月から半年ほどの長いスパンで実施したアクションの見直しに向いていると思いました。
私たちのチームでは、Dropped(やったけど、やらなくなったもの。今後も完了しないもの)なアクションはあまり出ませんでしたが、Pending(途中で止まっているもの)から再開した方がいいものや、再開するために必要なアクションを話し合うと、より良い振り返りができそうです。
実践例などの参考リンク
書籍『ふりかえりガイドブック』でも紹介されている。
10. Small Starfish
実施しているプラクティスを次の3つのエリアに分類することで、プロジェクトの健全性を見積もる。
- Keep / 続けること
- More Of / もっとやること
- Less Of / もっと減らせること
前述のパトリック・クア氏が推奨するStarfish(ヒトデ)という手法があり、これをアレンジしたもの。
- The Retrospective Starfish – thekua.com@rest
More Ofはポジティブな共有
Small Starfishは、チームでやっていることやそこでの気づき、良かったことを共有するのに適しています。KeepやMore Ofを挙げているときは、振り返りをポジティブに進めることができました。Less Ofはネガティブになりがちなので、More Ofを振り返りの最後に持ってくるとよいのではないかと思います。
実践例などの参考リンク
- チームで振り返りを導入してみて半年くらい経ちました - dip Engineer Blog
11. Good & New
チームメンバーのそれぞれに、過去24時間以内にあった良い出来事を話させることで、チームの活性化やアイスブレイクにつなげる。
アメリカの教育学者ピーター・クライン氏が開発し、書籍『こうすれば組織は変えられる! 「学習する組織」をつくる10ステップ・トレーニング』で紹介している。
拍手をすると会話が自然と弾む
Good & Newでは、良かったことと気づきを挙げます。共有する内容は珍しいものではありませんが、1人の発表が終わったら「拍手をする」というルールが面白い振り返り手法でした。拍手するだけですが楽しい雰囲気が生み出せて、会話が自然と弾むような進行ができました。
しかし、オンラインでは拍手がノイズキャンセリングによって聞こえなかったりします。オンラインで実施するときには違うリアクションをとったり、スタンプで対応したりといった違うルールを作るとよさそうです。
実践例などの参考リンク
- アカツキメンバーが毎日5分間行う習慣"Good and New"と主な効果3つ - Akatsuki TERRACE
- 朝礼でやっているGood & Newの話 – ideapoint
- Good & New(グッドアンドニュー)とは|ルールや手順・効果・事例を解説 - SMARTCAMP DEXIGN
12. MAD SAD GLAD - 喜・怒・哀
メンバーが次の3つの感情面からスプリントを振り返ることで、チームの士気と仕事の満足度を向上させる。
- MAD / 怒 ... 怒り
- SAD / 哀 ... 悲しみ
- GLAD / 喜 ... よろこび
共同作業管理プラットフォームWrikeや、振り返りプラットフォームTeamRetroのブログで紹介されている。
- What Is the Mad Sad Glad Retrospective? - Wrike
- What is a Mad Sad Glad Retrospective? - TeamRetro
miroのテンプレートでサクッと準備
MAD SAD GLADは、感情にフォーカスして振り返りをしていく手法です。私たちのチームでは、具体的に「楽しかったこと」「イラッとしちゃったこと」「内省したこと」の項目で挙げていきました。
怒りの項目を「イラッとしちゃったこと」にしたのは、できるだけ楽しい雰囲気で振り返りをしたいという方針があったので、いい調整だったと思います。また、振り返りはmiroで行っていますが、MAD SAD GLADはテンプレートとして用意されているので、サクッと準備ができたのもよかったです。
実践例などの参考リンク
- チーム開発の潜在的課題が見つかる振り返りワーク「Mad Glad Sad」 - BASEプロダクトチームブログ
Miroに「喜・怒・哀によるふりかえり」のテンプレートがある。書籍『アジャイルレトロスペクティブ』でも紹介されている。
13〜15. 自分たちの手法「FDL+Try+Memo」を見つける
いくつか振り返り手法を試した後に、チームで自分たちに適した進め方を決めたり、必要な振り返り項目を話し合い、継続して行っていく振り返り手法を決めました。 私たちのチームが、既存の手法から最終的にチームに最適の方法にたどり着いた工程をまとめたので、参考にしてみてください。
13. 理想のチームについて考えてもらう
私たちが行ったチームビルディングでは、これまでのスプリントの振り返りを経て、自分たちの理想のチームに必要な要素、そのために今のチームに足りていない要素を話し合って、次のスプリントでやっていくことを決めました。ファシリテーターが、理想のチームがどのようなものかを仮定しておくと話しやすいです。
毎回の振り返りでやる必要はありませんが、チームメンバーが増えたときや、プロジェクトの区切りのいいタイミングで行ってみるといいでしょう。
14. FDL+Try
振り返りの手法をいくつか試してみて自分たちに合っていたのは、楽しく振り返りをするのに最適なFDLでした。問題点や困っていることは毎日の朝会で共有することができていたからです。
また、チームビルディング(上記の13)を行った際に「前回のスプリントより成長していることが、理想の要素である」という意見がありました。そこでFDLをベースとして採用して、そこにTryの項目を追加することで、チームに合った振り返りに近づけたかなと感じています。
このように、自分たちのチームがスプリント期間で行っている他のミーティングの内容を考慮して、振り返りの手法を決めるのもいいのではないかと思います。
15. FDL+Try+Memo
そして現在は「FDL+Try+Memo」という手法を採用しています。
しばらく「FDL+Try」で振り返りを続けるうちに、挙がった項目に対してファシリテーターがさらに深掘りする必要があると感じました。しかし、Fun(楽しかったこと)が少ないときにどうするのか? Done(価値を届けられたこと)やTry(改善・挑戦すること)を達成できなかったのはどうしてなのか? を話し合える場を作っていくのは簡単なことではありません。
そこで、そうした場を少しでも作れるように追加した項目がMemoです。ここには何かあれば書いてもいいし、何もなかったら書かなくていい場所にしました。ボソッとつぶやくように挙げた内容から、より深く振り返りができることもあります。
また、Memoの項目が振り返りの最後のトピックになるので、雑談のきっかけにもなったり、基本的にカジュアルに使われてます。
まとめ ─ チームに合ったやり方で振り返りを進めよう
私たちのチームでは、現在もメンバーが毎週交代でファシリテーターを担当しています。リモートのメンバーもいてオンラインで実施することが多く、ファシリテーターを固定すると振り返りが作業のように進んでしまうこともあるので、そうならないよう交代しています。
とはいえファシリテーション能力には個人差もあるので、それを補う役割りをMemoが担っています。ファシリテーターはMemoの内容からメンバーに話を促したり、質問したりできます。メンバーもFDLやTryの背景を説明したり、FDLのどれでもないことをチームで話したりしたいときには、Memoに追加してファシリテーターに拾ってもらいます。
他に、FDLのベン図に貼られた付箋の偏りから「楽しくやれてますか?」とか「やりたいことは何かありませんか?」と話すこともあります。さらに、ファシリテーターが変わるとアイスブレイクの雰囲気も変わることが、チームで楽しくレトロスペクティブをする工夫になっています。
チームが前に進む限り、振り返りに終わりはありません。そのときのメンバーや状況に合ったスプリントレトロスペクティブを行うことが大切で、完璧な振り返り手法というものもないのだろうと思います。いろいろな手法を試してみて、自分たちに合う振り返りを作り上げてみてください。その際に、私たちのチームで行った手法の感想や雰囲気が少しでも参考になるとうれしいです。
参考文献
Esther Derby、Diana Larsen『アジャイルレトロスペクティブズ』(角征典 訳、2007年、オーム社)
森一樹『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』(2021年、翔泳社)
企画・構成・編集:はてな編集部
※振り返り手法の説明や国内での実践事例、関連書籍、オリジネーターによる解説などを編集時に追記していますが、調査が十分でない手法があることはご了承ください(編集部)。
- 金氏 竜哉(かねうじ・たつや、うじた) X: @uji_t4 / GitHub: uji-ta (ujita.k)
- 2020年9月にイノベーター・ジャパンに入社。フロントエンドエンジニアとして、出版業界向けに特化した独自のCMS「MediaDX」の開発に携わる。
Qiitaや会社エンジニアブログにも記事を執筆。